11-昭和の女がやって来た

私の台湾旅行も7日目に入り、
とうとう彼女が日本から合流する日が来た。
私は彼女を空港まで迎えに行かないつもりでいた。
というのも空港から市内までは空港からのバスで一本だし、
適当な所で降りれば地下鉄も通っている。
いくらどんくさい彼女でも、なんとかなると思ったのだ。

しかし待てよと。
私も初めて台湾に来た時は、見慣れぬ漢字ばかりの街に
少なからず不安を抱いたものだ。

迎えには行かないと宣言しつつ、
黙って行ってやるのが昭和に生まれた男ではないのか。

そう考えた私は、ゲストハウスをチェックアウトし、
時間に余裕を持って、空港バスの出ている台北駅に向かった。
私がバス停に着いた頃、ちょうど空港行きのバスは
発車した後らしく、私は30分も待つはめになった。
哎呀!このままでは、彼女の飛行機と、
私のバスは同じ時間に空港到着予定である・・。

しかも彼女は私が空港に来る事など知らない。
当然会う場所など決めていない。
携帯も海外で使う設定をしていないので通じないし、
会えない場合、かなりややこしい。

私の不安をよそにバスは定刻どおり空港に到着した。
ん?辺りを見渡し私は異変に気づいた。
バスは空港に着いたというのに
降りる人と、降りない人がいるのだ。
全くどういうことだ?私は降りたほうがいいのだろうか。
それとも・・・。

運転手にその訳を聞いてみると、ここはターミナル1で
次はターミナル2に行くという。そして君はどっちだと。

なんたること!!!

そんな事知らぬ。存ぜぬ。
私はターミナル1とターミナル2が近いことだけを
運転手に確認して、ターミナル1で降りてみた。
もはや賭けである。

そして、すぐにバスの外にいた空港職員を捕まえ、
大阪-台北間の飛行機はターミナル1ですか?と聞くと、
彼は斜め45度をしばらく見て、そうだという。
一安心した私は、待合のロビーに向かった。
そこには、ネームプレートを手にした人が
大勢いて、多くの旅行者を待ち構えていた。
私も用意していた彼女の名前がローマ字で書かれた
ネームプレートを取り出し、彼女を待つことにした。

しかし到着時間を30分過ぎても誰も来ない。
入国審査を通ってもそんなに時間がかかるだろうか。
到着予定の飛行機を表示する電光掲示板にも
OSAKAの5文字はない。
何かおかしい。だいたい、ここは私が台北に着いた時
降り立った待合ロビーでもない。

まずい。どうやらここではないようだ。
着いているとしたら、彼女の飛行機はもうとっくに着いているはずだ。
私は搭乗口に向かって走り出した。
そこには飛行機に詳しい地上スタッフがたくさんいるはずだった。

襟元にスカーフを綺麗に巻いたお姉さんに
大阪からの飛行機について尋ねるとお姉さんはPCをいじくり
その飛行機は4時20分、台北着のものですね?と言う。
はい!まさにそれです!
私がそういうと彼女はスカーフをなびかせこう言った。

その飛行機はターミナル2です。

チーン・・・。
平成の男ならすぐに諦めて、
ママに泣きながら電話でもしていただろう。

しかし昭和の男は違う。
私はターミナル2に向けてすぐに走り出した。
小学生時代、陸上部で鍛えた自慢の足で!

ターミナル2まではモノレールのようなものに乗り
15分くらいで着いた。
まぎれもなく私が台湾に着いた時の待合ロビーである。
そこには多くの日本人観光客のツアー団体がいた。

私は一人の日本人を捕まえて、大阪からですか?
と聞くと、そうですという。間違いない!これだ!

しかし彼女はいない。
時計を見ると、もう飛行機が到着してから50分も過ぎていた。
空港にいた日本人もツアー客のみで、個人客はいない。
待っていても、仕方ないので
私はバスのチケットカウンターに向かった。
台北へのバスチケットを買うならここを一度は通るはずである。

私はバス会社のカウンターに行き、
ここに中国語を話せない日本人女性が来ませんでしたか?
ほっぺたが大福のような女なんですが、と聞いてみた。

そんな人いたかしら、おばさんはそう言った。
来たらすぐ分かるだろうから、おそらく来ていないのだろう。
バス会社はもう一つあったが、さすがの昭和の男も
意気消沈気味になり聞く元気をなくしていた。

もしかしてチケットを買って、
もう外でバスを待っているのだろうか。

私が外に出てみると、親子らしき2人と
少し離れた所に1人の女性がいた。
親子は違うとして、私はもう片方の女性を見てみた。
暖かい台北で季節はずれの革のジャケットを着ている。
どこかで見た色だ。そして大福のようなほっぺたをしている。

間違いない!!
それはまぎれもなく奴だった。

よかった・・・。
私が音を殺して近寄り、変質者のふりをして大声で襲いかかると
昭和の女は声もあげずに、ただただ顔だけで驚いていた。
どうやら人間は本当に驚くと声もでないらしい。

久しぶりの再会を喜び、私はようこそ台湾へ!と言った。
そして再び彼女を連れてバスのチケットカウンターに寄り
彼女と同じチケットを買うと、さっきのおばさんが
私たちを見つけ、見つかったのね!といい親指を立てた。
私もおばさんに親指を立てて返した。

まったく手のかかる女である。